あのコントをもう一度、今は幻に…

 最高50・5%という驚異的な視聴率を記録したおばけ番組「8時だヨ!全員集合」。その緻密な笑いを産み出してきたのは、ドリフターズのリーダー、いかりやさんだった。終了から20年近くたった今も、「−全員集合」のDVDが18万セットも売れるなど、若い世代にも人気が波及。再ブーム到来に、いかりやさんの健康が回復次第、昔のコントをそのまま演じる企画も浮上していたが、幻に終わってしまった…。

 ドリフターズ結成40周年の記念すべき年に、いかりやさんが天国に旅立ったのは何かの因縁か。

 今年1月に発売されたDVD「ザ・ドリフターズ結成40周年記念盤 8時だヨ!全員集合」は3枚組、270分のボリュームで、税込1万290円という高額にもかかわらず、発売日だけで初回出荷の7万セットを売り切ったほど人気となった。ドリフの笑いが懐かしさだけでなく、今の若い世代にも新鮮に受け入れられた証拠だった。

 「−全員集合」の放送作家、奥山恍伸さんは「ドリフはメンバー全員が面白かったが、長さんが特徴をつかんで適材適所に使っていた」と振り返り、「TBSの大きなリハーサル室で、長さんと私とディレクターで打ち合せをすると、カトちゃん(加藤茶)はトランプ、(荒井)注さんは本を読み、(高木)ブーちゃんは寝ていてバラバラ。台本の打ち合せはすべて長さんだった」とその功績を力説する。

 「こちらがプランを示しても、長さんが引っ掛かると大変で、何時間でも長い足を折ってしゃがんで考えていた。とてもじゃないが、ふざけた番組の打ち合わせじゃなかった」といい、「いくつかの番組を掛け持ちしているのに、長さんに引っ掛かると1日つぶれちゃう。本当にシビアな人、真面目に考える人だった。これから、むきにならないで性格俳優としてやっていければうらやましいと思っていたのに…」とその人柄を偲んだ。

 メンバーの1人、加藤茶はDVDの発売記念で取材を受けた際、再ブームをきっかけに、もう1度「−全員集合」のコントを、そのまま演じる企画があることを密かに明かしていた。加藤は「ちょっと動きが悪くなるかもしれないけど、昔より味は出ると思う」と熱い思いを語っていた。

 いかりやさんの“充電期間”が終了次第、実現に向けて動き出す予定だっただけに、残されたメンバーの悔しさは察するに余りある…。

★才能を開花させた「踊る大捜査線」

 役者・いかりやさんの魅力を最大限に引き出し、その才能を開花させたのは「踊る大捜査線」シリーズだ。

 ドラマ、映画で現場をともにした共演の織田裕二(36)はいかりやについて、以前、サンケイスポーツのインタビューにこう答えていた。「撮影の時間がどんなに遅くなっても、一晩でもジッと待っている。こんなベテランなのに、この姿勢はありなの?と思いました」。

 また、自分が画面に映らない時でも、相手役としてその場に立っていてくれたという。その時も決して手を抜かなかった。「たとえ自分の部分がカットされていても文句を言わない。すごいなーと」(織田)。

 織田をはじめとする若い俳優たちに自然と尊敬の念を抱かせていた長さんだが、本人は、「自分は一芸も極めていない」という思いが強かった。

 バンドからスタートしてコメディアン、そのうち役者へ。リーダーとしてグループをまとめ、コントに精を出していた時代は何をやっても「いかりや長介」。「芝居は自分以外のもう1人の自分になれる」と役者として、さまざまな色に染まれることを喜んでいた。

 ゴリラのように飛び出た下唇は、コメディアン時代は笑いの種になったが、晩年は個性的な顔立ちに。穏やかな話ぶりは温かな人間味を表現した。「踊る−」の亀山千広プロデューサーは、いかりやさんを「日本のモーガン・フリーマン(黒人の人気個性派俳優)」と評していた。

 役者として、“第2の黄金期”を迎えていたいかりやさん。さまざまな苦労をのみ込んだいぶし銀の演技はまだまだ必要とされ、期待もされていただけに、その死は残念だ。
http://www.sanspo.com/geino/top/gt200403/gt200403210102.html

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